今日は母の日である。
私の母は今から16年前に鬼籍に入った。
何年もパーキンソン氏病と戦い、最後は肺炎で
この世を去った。
三姉妹の長女に生まれた母だったが、次女と三女が口が達者で
気が強かったのに比べ、母はいつも一歩引いて抑えていた
ようだ。私が子供の頃に母型の親類の集まりにいくといつも
そんな光景だった。
私に母の笑顔の記憶が余りないのは、母が子供の頃から
「辛抱」
が体にしみついていた事と、晩年はパーキンソン氏病の
影響で「顔が無表情」になっていたからかもしれない。
そして母にとって一番人生に影響を与えたのは
「狂気な夫(私の父親)の存在」
だったと思う。
母は「貧乏と借金と夫からの暴力」という
毎日が極限状態の中で私と妹を育てた。
特に父親からの「言葉と身体への暴力」はひどかった。
今でこそDVは認知されているが、あの頃は警察も関与できなかった。
父が生来のむらっ気から職を転々としたことから、母親は
家計を助ける為に保険の外交員をしていた。
しかし、母親の性格では営業職は難しく、後に自らの破綻を招く
原因を作ってしまう。
また化粧品の訪問販売なども行っていたが、それらをしている
こと自体が商人だった父にとっては、うまくできない母の行動が
ストレスだったらしく、母は父の暴力のひどさから仕事を辞めざるを
得なかった。
後に父親自身が病に倒れていなければ母は殺されていたかもしれない。
私も父親には幼少期にかなり醜い暴力を受けていた。
機嫌が悪いと私の言葉の揚げ足をとっては、何度も柔道投げと
殴る蹴るを繰り返された。(骨が丈夫だったからか骨折はしなかった)
そして大事にしていたモノもよく破壊された。
その影響からか私は言葉を話すこと自体が恐くなり、それから30歳
になるまで、私は人の「怒り」に過敏になってしまい、人と
話すことに恐怖を感じることが多かった。
皮肉にも父親が病に倒れ、家族を頼らざるを得なくなった時に
家庭は少し落ち着いた。
だが、経済的な問題が限界を迎えていたときに、母親が自転車事故で
腰の骨を折る重傷となった。
やがて骨折は治ったが、その後パーキンソン氏病を発症した。。。
病床の父と母の面倒を見るのは妹、母親の借金を返すのが
私という生活がそれから10年以上続いた。。。
20代後半で父親、そして30歳前半で母親を亡くした私にとって
「親孝行」という言葉自体が、両親が生きている間は無かった。
というよりも「恐怖心」がそれらを消していたのだと思う。
しかし母親が亡くなったときに、私の中で何かが解けた。。。
葬式を済ませ、持ち帰ってきたお骨を置いて線香を焚いた瞬間に
私は声を上げてその場で嗚咽していた。
それは母の
「伝えたかった事」
が私の中で一気に腑に落ちたからだった。
母が亡くなる数ヶ月前から、入院先で母の意識がある時は
あまりなかったらしい。
だが妹が見舞いに行っていると、母は私の名前と
「キツネが。。。キツネに気をつけて。。。」
とうわごとで言っていたようだ。
「私の事は言わないのに兄の事はよく心配していたよ。」
と妹がちょっと不機嫌そうに言っていたのを思い出した。
「キツネ」とは、おそらく私が当時付き合っていた女性の
ことを言っていたのだと気がついた。
もちろん母はその女性には会っていない。だが後にその
「キツネ」の意味を私は命がけで知る事になった。
私は、不器用で堅物だったけど実はとても愛情の深かった
母親の思いを亡くなってから気がついた。
私は「親不孝者」だ。
生きている間も、色んなストレスからそうとうひどい言葉を
母に浴びせていた。
それについては後悔しても時は戻ってこない。
母が妹や私に残したかった事は未だに分からないことが多い。
なぜなら母は、自分の本心を中々言わない人だったからだ。
でも、一つ分かったことがある。
何度も暴力を奮われても、収入が不安定でも父親とは別れずに
子供を育てた事は、良かれ悪かれ母親の「諦めない意思」
だったのだと思う。
あとでわかったことなのだが、母親の実家は後に土地の所有の
問題で無くなってしまった。また母親の末の妹が実家にいた
こともあり、母は実は「帰るところがなかった」のだ。
そんな亡き母に私はなにをもって応えていけばいいのか。。。
シンプルな答え「とにかく生きろ!」
細かい事はそっから考えればいい。
今はそう思っている。。。
了
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